3、40年前のアパートのような雰囲気の中に絵とか皮のソファとか、の中でくつろぐ50歳くらいの、東京のおばちゃん、と呼ばれていた母親の姉
に預けられた肥満児が僕で、うちの両親は離婚か何かをしていて、僕はピカソという名前になっていた(何か、昭和の、ゆとりある暮らし、への見栄で絵を買うような匂いでそう改名させられた)
東京のおばちゃんとその旦那さんと、そこに訪ねてきた夫婦、4人組の大人の会話、みたいのを手持ち無沙汰で聞いていて、夫婦がアパートのことを褒めている
外から見るとどう見てもボロめのアパートなのに、家具など内装だけ立派で、彼ら4人もまるで上流階級かのごとく振舞っている
・ああ、この窓から海が見えたらいいのにねえ
・当時はこんなワンルームみたいなものにベランダだけくっつけて、ずいぶんな値段で貸してたものだよね
夜になって、もう1つ部屋が用意されて、夫婦がその部屋に、東京のおばちゃんとおじちゃんがもう1つの部屋に行く
たぶんその家に預けられた初夜で、僕は薄い鉄でできた階段の踊り場で薄暗い中1人で佇んでいる、カブトムシが飛んでいるのが見える
どちらの部屋の声も聞こえて、そのうちピカソはどこに行ったのか、と東京のおばちゃんが言う それに気づいた、訪ねてきた夫婦の奥さんの方も、もう暗いよ、と心配している
・暗いからこっちに入っておいでー
と大きな声で言われて、「僕帰るー!」と大きな声で応えると、東京のおばちゃんが出てきて、
・帰るってどこへ? という
帰るところなんかない、のが急に現実味を帯びて、でも、帰るところがない、とこの人がそうはっきり言うなら、仕方なくここで寝てもいいのかな、と心のどこかで安心する
アパートの家賃は2000円
薄っぺらく固い材質から布団のような材質のものを志向するようになる