Supersize me. 多田くんとのユニットdyuuに、サックスのillbulを迎えてのパフォーマンス。

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最近父親の夢を見ました

藁葺きの屋根の家
土間のある家だとか
複雑な形の窓がいっぱい重なって
それだけで家になっている
そういうのが森の中の空間に
3、4軒建っている 場所があって
そこが その夢の中の僕の 実家でした

父親がその家の屋根の上を
満足そうに歩いていて
僕がそれを見ている

父親は今年で 67歳になると聞きました
家の玄関には 父親と母親が一緒に
雪山で スキーウェアを着て
バブルとかの頃だと思うんですけど
仲良さそうに 写っている写真があって

僕が 生まれて
大人になるまで
2人の そういう時間を
奪ってきちゃったんじゃないかな
2人は ちゃんと 楽しかったのかな

小さい頃
たまに家族で 旅行に行きました
父親は 予定を立てられない人で
よく家族そろって 車の中で寝ました

真っ暗だった どこかのサービスエリアの駐車場で
ふと目をさますと
小さな密室に 家族が全員 座っていて
そこではじめて 自分がどこにいるかわかる
自分が どこで一晩を過ごしていたのか

あたりは山に囲まれていて
自分のズボンの右の裾に、なにか得たいのしれない、ガムみたいなものが くっついていて それをなでながら
また 車が 動くのを
他の家族が 起きるのを
ただじっと待つ

昨日の あの真夜中があって
朝になって 山が 見えて
僕の 全然 知らない場所に
僕の家族が みんな 座っている

その場所も また夜になって
真っ暗になって
でもそこに もう僕らは いない

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今日は あの山に 行ってみようと思う
記憶の 端々で
いつも 空と 地面の 間の
いっぽんの線 になっていた あの平面
絵葉書みたいな あの景色の いっぽんの線に向かって
歩いてみようと思う

絵葉書みたいな いっぽんの あの稜線に向かって
ただ 歩いてみようと 思う

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でも
あなたが
歩くのは嫌だとか
疲れただとか
そもそも山なんか 行きたくないとか
そう言われるのが 怖い

ぱっと目を上げて

見て
一本の線になっている
一本の線でしかないあそこが たしかに遠くにある
ここから少しずつあるいて 近づいていって
そうすると 数時間後に
もしかしたらもっと短く
それでもたしかに いつのまにか
あそこの上に 立っているだろう

逆にこちらの町の方を
振り返って 見返して
こちらの町の方の光を
2人で観ることになるだろう

遠くの あの山の上に立って
遠くにあったはずの あの山の上で
今度はこちらが 遠くになっている

そこまで空がすーっと続き
そこまで地面が たしかに ずーっと続き
そこまで空気が たしかに 続き

今日はあの 遠くの山に行ってみようと思う

だってそうするより他に どうしようもないじゃない
たしかに
この暗闇に
風がふいて
あの柳の枝が 揺れる音がして
街灯の光が見えて地面の昼間の熱があって
ここにベンチがあって僕らは座っていて
その中に ただいるしかない

手を伸ばしても
それは ずいぶん遠くにあって
それが その山の上に
立っていることだけ 考えて

あの山が 一枚の 一本の
空と地面の 間の 線になっている
その一枚の 景色だけを 見ながら
その景色だけを 目印に
一歩一歩 歩いていくより しょうがないじゃない

「私は
あの山の 森の中に
たくさんの木が生えていて
ああ きっとそこは
きっとそこは
でも 思ったより 空間があって
木と木の間の
葉っぱと葉っぱの間に
光が 落ちていて
夜になれば
私達はそこから星を眺めるかも しれない
私達は木と木の間から くらい空を 見上げて
星を 眺めるかも しれない

ここより大きな 枝と枝のすれ違う 風の音を聴きながら
街の音を遠くに見ながら 今ここにいる私達を
遠くに 置き去りにしながら
空を見上げて 星を
星について 話すかもしれない

私の靴は 10cmのヒールで
山のやわらかい土に 一歩一歩突き刺さるだろう
岩を避けて 石を避けて それでも2人は 歩いていくのだろう
だって そうするより他に しょうがないじゃない

星はあと 10時間で 登ってきた太陽の光に 隠されて 無くなってしまう
9月2日の この星空は
あとたった10時間で なくなってしまう

私達は それを 2人で 眺めるのかもしれない
眺めるだろう 眺めることになるだろう

10cmのヒールが やわらかい土を突き刺しながら
小さな穴をいくつも あけながら」

「僕たちは
あの山と 空の間の
一本の線に向かって 歩いていくことに なる
そうするより他に しょうがないのだから
そして 今 僕らがいる この町を
振り返る ことになる」

今日は あの 山に 行ってみようと 思う

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地球の成層圏まで 約17km
地球の直径は約1万3000km
太陽まで 光の速さで 8分20秒
ベテルギウスまで 光の速さで 642年

足の長さは75cm

腕の長さは72cm

体重68kg

左足に 痛み

30歳

その中に その形の僕が そっくり 収まっていて
この右手と この左手と
この右手と 左手と
体を 動かしている

この皮膚から外に出れない
この皮膚から外に出れない

あの山まで 目算10km
歩幅70cm

2万回の歩行で たどり着くことになります
そういうサイズです
そういう大きさで 息を吸って吐いて
息を吸って吐いて

生きている

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寝て 起きて

寝て 起きて

その 繰り返し

右足

左足

右足

左足

右足

左足

その 繰り返しで 繰り返しで

 

息を吸って 吐いて

息を吸って 吐いて

その 繰り返し

 

スズメという鳥は 1日に600kmも 移動することがあるそうです
あの小さな公園の あの小さなスズメが
600km も離れた 自分の知らない町の また小さな公園まで
一直線に 移動していく

その各々が 寝て起きて 地面からミミズを掘り出して 食べて
親鳥がいて 生まれて 600kmも飛んで 移動して その旅路があって
新しいつがいを作って 卵ができて またヒナが生まれる

その 繰り返し

飛んでいく スズメの 上に 降り注ぐ 雨
スズメの 形に 地面を 切り取る 雨
10万年 前から 同じように スズメの形を切り取ってきた 雨

僕も同じように 外を歩いて
僕の形に 切り取る 雨

その 空間 の中を 水滴で 埋め尽くす
上から下に 降ってくる 埋め尽くして
各々の 生き物の 形を 切り取る 雨

地面を濡らしていく 雨
空気中に舞い上がった 全ての粉塵を
水の中に閉じ込めて また地面に戻していく 雨

雨水になって 岩の中をすり抜けて 清水になって
川になって 海に流れ込んで 大きな海になって
波になって また蒸発して 雲になって 雲になって
遠くのあの 大きな積乱雲になって 雷 灰色の雲 青い空を覆い尽くして
また降り注ぐ 雨になる

粉塵 地面に降り注いで 清水 川 海 波 蒸発 雲 空 雨

その繰り返し

の中を

吸って吐いて

吸って吐いて生きる

吸って吐いて
歩いて立って寝て起きて 生きる
話しかけて話しかけられて 生まれて育てて生きる

雨の中を
雨の中を
歩く
生きる

すずめ かもめ きじばと 木の葉っぱ
73億人の人間 虫 微生物 シマウマ パンダ 象
遠くの見知らぬ象
水飲み場に行く
チーター ライオン フクロウ ハイエナ カバ キリン
クマ ホッキョクグマ

雨の中を生きる
雨の中を歩く

生きる

呼吸をする

吸って吐いて

 

呼吸をする

瞬間

 

生きる

生きる

生きる

 

雨の中を 生きる

 

粉塵になる日まで

雨になる日まで

地面になる日まで

 

吸って吐いて

生きる

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あの駐車場の
山に囲まれた あの駐車場の
僕の家族が寝ていた あの場所が
今この瞬間も たしかにあって
同じように 暗くなって
いるだろう

妹は嫁に行きます

僕の 体も大きくなって
父親は小さくなって
母親も小さくなって
あの 車は もう ない

山に囲まれた どこだかわからない
あの駐車場は それでも きっと 今も あるだろう

星が 見えるだろう
風が ふいているだろう
山の 稜線が 見えるだろう
誰も知らない小さな砂が 落ちているだろう

ここは 20年後の9月2日
遠くの 遠くの 9月2日